おか目八目 平成20年3月1

  「海軍と現代の略語について」
                     粕井かんじ

 
毎月1日更新
TBSテレビに出演

 2月25日付けの「貫次の最近感じること」に書きましたが、その前の週の土曜日、TBSテレビの全国ネット「ブロードキャスター」に私がかつて海軍の士官時代に使っていた略語について取材され、その放送がありました。

 全国放送なので見た人が多く、あちこちからの電話、街頭で「見ました」の声かけなどがあり、テレビの影響力はすごいと思いました。
 実は戦時中、私は海軍中尉でしたが、士官の仲間うちでよく使われていた英語とローマ字式の略語がありました。それとよく似た「KY式日本語」が最近若者の間にが流行っているそうで、それと対比したインタビューなのでした。

 昔の海軍はモデルが英国であり、士官はジェントルマン、「スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂これぞ船乗り」と教えられました。そして部下の下士官・兵の前では常に毅然たる態度が必要でした。

 そうした環境下、仲間うちの私的な会話、特にヘル談(猥談)などについては部下にわからない用語を使う必要があり、そこから普及したのでした。


士官が使った主な海軍略語(隠語)

 「アール」Rで、淋病の頭文字・
「アフター」未亡人、後家さん。
「インチ」馴染み、特に女性、Intimacyから。
「ウー」女性、ウーマンの略。
「エス」芸者、芸妓。
「エム」もてるの頭文字のMOから。MMKは「もててもてて困る」で、今のKY語でも使う。
「ギヤ」女性のシンボル。ギヤナイスは名器の意。
「ケイアイ」Kissの二文字から。
「ケイエイ」かかあ、妻、kakaのKA。
「ゴッド」料亭の女将、おかみ。
「コレス」卒業年度が同じ貴様と俺、Correspond。
「ゴッド」料亭の女将、おかみ。
「エフ」振られる。ローマ字の頭Fから。
「プラム」Plum梅で、梅毒のこと。
「ブルーム」箒、芸者をなで斬りにすること。
「ピー」娼妓、女郎。
「ブラック」玄人のクロから商売女のこと。
「ホワイト」素人の女性。
「マリる」結婚する。
「メイド」主に料亭の仲居や女中。
「レス」レストラン、料亭。
「ロング」鼻の下を長くする。首ったけ。

など、いろいろありました。放送では時間の制約があり、特に公序良俗?に反する用語はすべてカットでした。


海軍は便利なら英語を

 戦時中は特に陸軍が中心なり、英語を「敵性語」として徹底して使用を禁止していました。一方海軍では、英語やその略語は普通に使われていました。
 一般的な用語では

「オスタッブ」洗い桶、ウオッシュタブの訛。
「カッター」短艇。
「ゴーヘイ」ゴーアヘッドで給油など「始めろ」
「ソーフ」甲板などを拭く掃除用具。
「チェスト」衣服箱、小物箱。

その他に英語ではありませんが
「ヨーソロ」幕末頃からの伝統で「宜しく候」で直進時の命令と復唱に使う。

 私は航空機の操縦をしていましたので、英語からの用語はむしろふんだんに使っていました。

「エナーシャー」Inertia、エンジン始動の慣性器。
「エルロン」主翼の端の動翼(補助翼)
「クイック・ロール」急横転。
「コンタクト」Contact、接触・接続。
「コンパス」羅針儀
「スイッチオン・オフ」電源入れる・切る
「修正タブ」飛行姿勢を安定させる翼端の小片。
「スティック」操縦桿。
「ストール」失速。
「スロー・ロール」緩横転。
「スロットル・レバー」エンジンの変速レバー。
「テーラージャスト」テールアジャストの訛で、尾翼角度調整装置。
「パス」着陸態勢に入った飛行機の状態。
「フットバー」方向舵。
「フラップ」主に離着陸時の揚力を増す下げ翼。
「ノット」1ノット=1852メーター、海里、浬。


馬鹿げた英語の排除

 戦時中は陸軍は徹底して英語を排除しました。

「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」は本来イタリア語で、イタリアとは一緒に戦った枢軸国でありながらどう間違えたのか、「ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ・ハ」に変えるほどの横文字嫌いでした。
 野球の「ストライク」が「よし」。「ストライク ツー」が「よしふたつ」。「ストライク スリー」が「それまで」。「ボール」が「だめ」。「アウト」が「ひけ」といった具合。

 「バックオーライ、オーライ・・・・・・ストップ!」が「背背発車、発車・・・・・・停車!」。「サイダー」が噴出水、「フライ」が洋天、「カレーライス」にいたっては「辛味入り汁掛け飯」とのことでした。
 幸い海軍にいた私はそのような不便さには会いませんでしたが、次のような経験があります。九州の博多航空隊にいた時、たまたま外出先の街角で警察官がさかんに「男性は必ず巻脚絆(まききゃはん・海軍ではゲートル)を着用しなさい。していない人は非国民です」と放送していたのでした。

 私が着用していた軍服は第一種軍装で、ズボンは穿いたままのストレート、もちろんゲートルなどは巻いていません。そのバリバリの海軍士官の服装が非国民だなんて、変な気分にさせられました。



なぜ流行るのか、「略語・隠語」

 先ず第一に、自分らの仲間だけの秘密にしておきたい心理があります。ある業界だけに通用する符牒もその一つ。
 例えば散髪屋の「シャー:1」「のん:2」「みみ:3」「ヌケ:4」「てら:5」「はな:6」「カギ:7」「ひょこ:8」「のし:9」がその一例です。

 二番目は簡便性です。海軍では信号の字数を少なくするため、正式の略語もありました。
 「シチ:司令長官」「サチ:参謀長」「フヨフ:副長より副長へ」「ヨヒ:飛行専修予備士官」といった使い方でした。

 三番目は時にある種のエリート・特権?意識です。住む世界や年代の違う人達に分からず、仲間だけに通じる内容に一種の遊び心を楽しむ快感とも言うべきものがありました。
 現代ではインターネットやケータイの普及が略語の流行に拍車をかけているとも言えるでしょう。



「KY式」日本語とは

 ところであなたは「KY」の意味がお分かりいただけますか。実は「KY=空気読めない」で、このほか代表的な「KY用語」をあげますと。

「AM」午前ではなく、後でまたね。
「ATM」アホな父ちゃんもういらへん。
「CB」超微妙。
「FK」ファンデ濃い。
「GMM」偶然街で会った元カレ。
「HD」ヒマだから電話する。
「IT」情報技術ではなく、アイス食べたい。
「IW」意味わかんない(私はこれをパネルに書きテレビで演出しました)
「JK」女子高校生。
「MM」マジムカつく。
「TK」とんだ勘違い。
「WH」話題変更。

 これらの認知度は10代=100%、20代=74%、30代=58%、40代=45%、50代=31%とのこと。びっくりしました。車中や道を歩いていても女の子がケータイに夢中のわけも少しわかりました。

 でも「KY用語」は海軍での略語に比べ、すべてローマ字の頭文字だけの略語で、インテリジェンスに少し欠ける気がします。




参考:『KY式日本語』北原保雄 編著(大修館書店)

 




 











テレビ番組
「ブロードキャスター」
に出演








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「KY式日本語」